3/11 ①
「おれ結構酔ってるかも、どうしよう?」
ひっ、と喉が鳴らないようにすることで精一杯だった。たしかに高嶺の花はいつもより幾分ぼやけた顔をしていた。今夜ひとりで帰るつもりなんてさらさらなかったけれど、でもこれは想定外だった。これくらいかな、と思っていたレートが急激に上がってしまった。本当に高嶺の花だった。みんなの憧れの、かっこいいあの人。ちょっとミステリアスなあの人。ちゃんと帰れそうですか?と訊くと、あなた次第かな、と彼はこたえた。倍プッシュだ。これに乗るのが正解じゃないのは確実だったけれど、これに乗らなかったら今年いちばん後悔するかもしれないと思った。終電、
「終電、乗っちゃうんですか」
うまくかわされそうな言い方をしてしまった、とちょっと悔やんだけれど、綺麗な口角が上がったので間違っていなかったのだと思う。実際間違っていなかった。そこから持ち帰るのは至極簡単だった。駅を過ぎたら、あとは3分南に下るだけ。汚い部屋も関係なかった。高嶺の花も、摘んでしまえばただの花だ。